当院ではCTやMRIを導入しておりません
CTやMRIはありません
レントゲンや超音波検査よりもより詳細に身体の内部を描出できるCTやMRI。
最近は導入している医院もあって、あると便利そうだな、とか、羨ましい!、みたいな感情も湧いてきます。
以前より「CTやMRIを導入してほしい」という患者さんの声や「導入してみてはどうか」というセールス、非常勤医師の声などもあり、CTの導入を検討したことも過去にはあったのですが、結局導入することなく今に至っています。
導入しなかったのは、当然お金に絡む部分が一番大きいのですが、「お金がないから」という単純な理由ではありません。
今回はそのお話。
CTは1台2000万円 MRIは1台8000万円
CTを新品で1台買うとなると、スーパーカー(死語?)並の金額がかかります。MRIは当院では検討したこともありませんが、その4倍くらいらしいです。
当然ニコニコ現金払いという訳にはいきませんから、銀行でローンを組んだり、リースというシステムを利用してリース会社から医療機器を借りる形をとって初期費用を抑えます。CTやMRIのような医療機器の場合リースをすることが多いと思います。
リース期間は大体5年。
つまり2000万円+αを5年かけて支払う形になります。
リース料率(利息のようなもの)が1.8%だとすると、5年間で支払う金額は2160万円。
年間で432万円の支払いになります。
CTで元を取るには
我々医療機関も採算度外視で運営はできません。(潰れちゃいます)
なので、医療機器を導入した際には、元を取るために頑張って使わなければなりません。
2000万円のCTをリースで導入した場合、年間の支払額は432万円でした。
これを上回る売り上げを出すためには、どのくらいCTを使えば良いのか。
ざっくり計算してみます。
CT検査は保険診療で料金が決まっています。
単純CTでは検査料、診断料、管理料を含めて、おおよそ14000円程度です。
432万円を14000円で割ると、約309件。年間で309件の単純CTを実施するとCTの実施料がリースの支払額を上回ります。
つまり利益が出ます。
これはひと月あたり26件程度。
ただ、この金額はCTを実施するにあたり発生するコストを0として考えています。
つまり、CTを動かすための電気代とか実施する人の人件費などは完全に無視しています。
それでも月26件以上CTを実施しないと元が取れない計算となるのです。
内科クリニックでCT検査が必要な患者さんはそういない
医院の営業日数は月で25日程度ですから、単純計算で平均1日1件以上CTを使わないといけない計算になるのですが、問題はCTが必要な患者さんが1日1人程度来院するかどうか、ということです。
検査が必要か否か。これは非常に難しい問題です。
例えば、胸のCT検査で診断可能な疾患といえば、肺がん、肺炎、COPD(肺気腫)、肺結核などが挙げられますが、軽いCOPD以外はレントゲンであらかたかたがつきます。
もしも撮ったレントゲンで異常があれば、あらためてCT検査を検討すれば良いし、緊急でCTが必要ならそもそも当院であわててCTを撮らずに搬送先の病院で撮ってもらえば良いのです。
当院に来院される患者さんは1日100人程度。
上のようにレントゲンを事前検査にして、レントゲン検査の結果をみて必要に応じてCTを検討するスタンスだと、当院でCTを撮ろうと思うような患者さんは一日100人の患者さんが来ても、月数人程度になってしまうのです。
被曝の問題もある
被曝の問題もあります。
胸部レントゲンの放射線被曝量0.06mSvに比べ、胸部CTの1回の被曝量は7mSv程度。100倍以上の被曝量で、これは1年間に自然に被曝する量(2.4mSv)のおよそ3倍です。
100mSvを超えなければがんのリスクは増えないと言われていますので、7mSvでも少量の被曝と言えますが、それでも不要な被曝をしていいわけではありません。
本来CT検査は必要最小限にとどめるべきなのです。
内科クリニックでCT検査を採算ラインに乗せるためには
当院のような内科クリニックでCT検査を採算ラインに乗せるにはどうしたら良いのか。
答えは単純に二つです。
一つは患者さんの絶対数を増やすこと。
患者さんの絶対数が増えれば、一定割合でいるCT検査が必要だと判断される人も増えます。大きい病院がCTを維持できる理由はまさにこれです。患者さんが多いので、CTが必要な患者さんも多いのです。ですが、内科クリニックで病院のような患者数を診察するのは困難ですので、この方法でCT検査を採算ラインに乗せるのは非常に難しいです。
もう一つは検査閾値(いきち)を下げること。
検査閾値とは検査が必要かどうかを判断する境界線とでもいいましょうか。つまりこれを超えたら検査しようと判断するポイントみたいなものです。本来レントゲンでこういう所見があったらCTを撮ろう、などと判断しているのを、より早期の症状から、極端な話で言えば「咳が出る」などの軽い症状だけでCT検査の適応にしてしまうのです。
当然検査数は増えますので、医院の経営としては安定します。
が、これは倫理的に、また国の医療財政的に大きな問題を孕んでいます。
検査の要不要、実施の是非については主治医に一任されているので、主治医が必要と判断すればCT検査が実施できます。
ですが、いや、だからこそ、我々医師には利益の有無などの雑念を排した、高い倫理観が求められます。
当たり前ですが、採算ラインに乗せるために本来やらなくてもよい検査を患者さんにしてはいけないのです。
経営者として
でも、私は経営者です。経営者として不採算の検査機器を持っていた時、採算に乗せるための方法があったとして、その誘惑に駆られないか。
私はきっと駆られない!
と胸を張って言いたいのですが、本当に困っていたら誘惑に駆られないとも限りません。
ですから、私としては、そのような自分の倫理観を試されそうな機器は持っていない方が、自分にとっても患者さんにとっても良いのではないだろうかと考え、CT機器を導入せずに現在に至っています。
ですので、当院ではCTやMRIをあえて導入しておりません。
ご理解いただければ幸いです。
ちなみに
ちなみに、当院でCTやMRIが必要となった際には
メディカルスキャニング千葉
https://www.medicalscanning.net/access/chiba/
千葉市立青葉病院
https://hospital.city.chiba.jp/aoba/medical/inspection_reservation/
での検査を紹介しております。
ちなみに2
これはあくまで、私が考えている範囲でのことです。
まず、内科以外のクリニックとは検査の適応について大きく異なりますので、当院の身の上話は全く当てはまりません。
また内科クリニックだとしても、ひょっとしたら私の知らない良いペイロードがあるかもしれません。
上には書きませんでしたが、採算に乗せる方法はあと2つ思い付きます。
・一つは人間ドックや健診などでCTを実施する。
・中古のCTを極限まで値切る。
これらもやはり色々問題がありますが、それはまた別の機会に。
もしもCTなどの機器の良き運用方法ご存知の先生がいらっしゃいましたらこっそりお教えいただきたいです。。。