OTC類似薬の保険適用外しについて【中編】

― 医療費抑制の正体と、数字で見えてくる現実 ―

中編・はじめに

前編では、OTC類似薬とは何か、そしてなぜ今「保険適用外し」という議論が出てきているのかについて、制度の概要を整理しました。

では次に、この議論はどこから生まれてきたのか。
そして、それは本当に「医療費抑制」につながるのか。

中編では、OTC類似薬の保険適用外しが検討されている背景にある医療費・財政の視点をひもときながら、
「誰の医療費が、どのように抑えられようとしているのか」
という点について考えてみたいと思います。

なぜOTC類似薬の保険適用外しが議論されているのか

OTC類似薬の保険適用外しが議論されている背景には、医療の質の問題というよりも、医療費や財政の問題があります。

日本の医療制度は、誰もが比較的少ない自己負担で医療を受けられる、世界的に見ても非常に優れた制度です。
一方で、高齢化の進行とともに医療費は年々増え続けており、この制度を将来にわたって維持していくために、「どこを見直すべきか」という議論が避けられない状況になっています。

その中で出てきたのが、
「ドラッグストアで購入できる薬と、ほぼ同じ内容の薬まで、保険で賄う必要があるのだろうか」
という考え方です。

いわば、
軽い症状については、セルフメディケーションをより活用してもらおう
という方向性です。

この考え方自体は、決して的外れなものではありません。
すべてを医療機関で対応することが、本当に社会全体にとって最適なのか、という問いは、私たち医療者にとっても無関係ではありません。

ただし、ここで注意すべきなのは、この議論が 
あくまで「医療費抑制」という財政的な視点から始まっている
という点です。

それは本当に医療費抑制になるのか

ここで一度、「医療費抑制」という言葉が、何を意味しているのかを考える必要があります。

最近、「医療費抑制」という言葉が横行していますが、その中で「誰の医療費が抑制されるのか」という論点が、意図されてか、されずか分かりませんが、不明瞭になっているように感じています。

今回議論されているOTC類似薬の保険適用外しは、行政や健康保険組合が負担する医療費を抑制するという目的で考えられているものです。

これは、その薬を実際に飲んでいる人の医療費を抑制することにはなっていません。

むしろ、現状のOTC薬の価格を考えると、OTC類似薬を保険適用から外した場合、個人の医療費は増大すると考えられます。

つまり、

  • 行政や保険者が負担する医療費は減る
  • しかし、患者さん一人ひとりの自己負担は増える

という 負担の付け替え が起きている、ということです。

「医療費抑制」という言葉だけが先行してしまうと、この構造が見えにくくなります。
誰の負担を、どのように変えようとしているのか。
その点を整理したうえで議論しなければ、患者さんにとって納得のいく制度変更にはならないのではないかと考えています。

実際にどの程度の負担になるのか

― 診察料と薬剤費を含めた具体的シミュレーション ―

※以下は、当院を初診で受診した場合を想定したモデルケースです。
(診療内容や時間帯、検査の有無などにより金額は前後します)

前提:当院初診時の診察料(モデルケース)

  • 初診料
  • 機能強化加算
  • 時間外対応加算
  • 医療DX推進体制整備加算
  • 外来後発医薬品使用体制加算3

これらを合算すると、

  • 診察料(総額):約 3,900円
  • 自己負担(3割):約 1,170円

となります。

フェキソフェナジン(アレグラ)

30日分(60錠)の比較

形態診察料自己負担薬剤費自己負担合計自己負担
保険診療(現行)約1,170円約190円約1,360円
保険診療+OTC類似薬25%上乗せ約1,170円約346円約1,520円
市販薬(アレグラFX)0円約4,000円約4,000円

ロキソプロフェン(ロキソニン)短期使用:4日分(12錠)の比較

形態診察料自己負担薬剤費自己負担合計自己負担
保険診療(現行)約1,170円約36円約1,210円
保険診療+OTC類似薬25%上乗せ約1,170円約66円約1,240円
市販薬(ロキソニンS)0円768円768円

ロキソプロフェン(ロキソニン)連用:20日分(60錠)の比較

形態診察料自己負担薬剤費自己負担合計自己負担
保険診療(現行)約1,170円約182円約1,350円
保険診療+OTC類似薬25%上乗せ約1,170円約334円約1,500円
市販薬(ロキソニンS換算)0円約3,840円約3,840円

このシミュレーションから分かること

この結果から分かるのは、

  • ごく短期間・少量の使用に限っては、市販薬の方が安く済む場合がある
  • しかし、処方期間が長くなるほど、医療機関で処方された方が個人の自己負担は安くなる

という点です。

また、

  • OTC類似薬に25%の自己負担が上乗せされたとしても
  • あるいは将来的にOTC類似薬が保険適用外となったとしても

現在のOTC薬とOTC類似薬の価格差が大きい限り、この関係は基本的に変わりません。

この中編で見えてきたこと

ここまで、制度の背景と、実際の数字を並べて見てきました。

中編で明らかなのは、OTC類似薬の保険適用外しが、

  • 行政や保険者の医療費を抑える方向には働く一方で
  • 患者さん一人ひとりの自己負担を軽くする制度ではない

という点です。

この「ずれ」をどう考えるかが、次の後編でのテーマになります。

▶︎ 後編につづく

次回の【後編】では、このシミュレーション結果を踏まえて、

  • 私自身がこの制度をどう見ているのか
  • かかりつけ医として、患者さんにどう向き合うのか

について、私の考えをお伝えします。